樫本大進&エリック・ル・サージュ シューマン&ブラームス 全曲ヴァイオリン・ソナタ・チクルス vol.2

樫本大進&エリック・ル・サージュ シューマン&ブラームス 全曲ヴァイオリン・ソナタ・チクルス vol.2に行ってきた。

曲目は
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
ブラームス、ディートリッヒ、シューマン:F. A. E. ソナタ
クララ. シューマン:3つのロマンス
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番

曲の構成の趣向がすでにドラマチック

全4曲。

1曲目 弟子:ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」

2曲目 仲良し3人のコラボ(シューマン、ブラームス、ディートリッヒ) F. A. E. ソナタ

3曲目 マドンナ:クララ・シューマン 3つのロマンス

4曲目 ラスボス:シューマン ヴァイオリン・ソナタ第2番

この構成を樫本大進さん、エリックさんお2人で考えているところを想像するだけでも楽しくなる。

1曲目 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」

ブラームスは20歳のときにシューマン夫妻宅を訪れ、以降、大作曲家への階段をかけあがることになる。
今回のプログラムでは先鋒をつとめる。
第1番「雨の歌」は46歳のときの曲で、重く密度の濃い曲だ。
「雨の歌」のタイトルはブラームス本人がつけたわけではないということだが、そうなっているので乗らせてもらうと「ピアノが雨でヴァイオリンが雨の日の部屋で一1人お茶をしながら考えに耽る人」のイメージで聴いた。

ヴァイオリンはしっとり湿度の高い音。憂いなのか、邂逅なのか、ときおり希望や甘い思い出も挟み込まれるような曲に感情が吹き込まれているような演奏だ。
出色は、第3楽章。
小さな音1つ1つに表情がありヴァイオリンが踊っているようで、エンジン全開!を感じた。

2曲目 ブラームス、ディートリッヒ、シューマン:F. A. E. ソナタ

ディートリッヒはシューマンの弟子。
つまり、師匠シューマンとその弟子2人がそれぞれ楽章を作曲して作られたコラボレーション曲だ。

名ヴァイオリニストへの歓迎曲ということで、仲良し3人が盛り上がって意気込みつつも競い合うかのような主張がヒリヒリと感じられるエネルギーに満ちている。
3人に共通するのは「暗いんだけど力強い」だろうか。
1楽章:ディートリッヒはファーストインパクト、3楽章:ブラームスは骨太、単体で演奏されることも多いだけあってさすがの仕上がり。4楽章:シューマンもまた負けじと重厚。

エリックのピアノの叩く音と大進のヴァイオリンは力でぶつかり合いながら融合の波動を送ってきて激しい。
と思えば柔らかい音、小さな音は小技が光って素敵だ。

暗いシューマンが流麗に感じられた。

3曲目 クララ・シューマン:3つのロマンス

一服の清涼剤。
クララ・シューマンはシューマンの妻。
シューマン家に男性3人が集ったのは仕事の音楽だけではないはず。
最高のピアニストで作曲もできるクララはマドンナ的存在だったことは間違いない。

3つのロマンスは「暗いんだけど力強い」世界にスッと引かれた”差し色”のような癒しの曲だ。

人はいつから”この曲はロマンチックだ”と感じるようになるのだろうか。
この曲はTheロマンチックだ。
憂い含んだあとの、可愛らしさ。 葛藤から希望の光射す移り変わりなどを作曲された1853年から170年以上後の日本人も通じる。

休憩を挟んだこともあってか大進ヴァイオリンは甘すぎない展開で、クララは男性3人のなかで女性女性していたわけでもないんだな、と感じさせてくれた。

4曲目 ヴァイオリン・ソナタ 第2番

シューマン、渾身の曲といえよう。

劇的に始まる。エリックのキレのあるピアノからの大進ヴァイオリンの受けで狼煙が上がるという感じ。
1楽章はもうそれだけで全曲くらいたっぷりだ。
続いてピアノとヴァイオリンの息のあったつぶつぶ感、ピチカートからの緩、静、強の変化。
そして4楽章は「きたーーー」という疾走感が押し寄せたと思ったらまろやかさに移行する。
シューマンは一筋縄ではいかない。
四季が移り変わるような多様な変化を10分に凝縮したかのような演奏だった。

シューマンは大作だとよくわかった。
1楽章ずつ音合わせをしていることからもしのばれる。

それぞれの曲を「なるほど、こうなのか。うんいいなぁ」と思いながら聴いたが、最後はシューマンに全部持って行かれた。

樫本大進ワールドを堪能

今回も、樫本大進ワールドに浸った。
どの瞬間をとっても無理なし無駄なし。生命の鼓動みなぎる演奏。

1音1音に表情が溢れそれが集まって音の景色が生まれる、そんな場面に立ち会った。

エリックのピアノは、小さな宝石がふるふると踊って湧き出しているよう。ヴァイオリンを装飾したかと思うと、前に出てきてまた引いていく。
大進と一心同体で、息が合っているというより、共鳴し合う生命体のようだ。

全4曲、四本立ての映画を一気に見たような濃さだった。


シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番4楽章 演奏はヴァイオリン:安永徹、ピアノ:市野あゆみ

(2024年2月4日 サントリーホール)

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