パユ様 with N響

God of Fluteエマニュエル・パユ、2022夏の来日演奏・その1はNHK交響楽団との共演です。
指揮は2022年3月にベルリンフィルでデビューした沖澤のどかさん。
沖澤さんは、現在ベルリンフィル芸術監督のキリル・ペトレンコのアシスタントを務めています。

♦プーランク作曲-
バレエ組曲「牝鹿」
フルート・ソナタ(管弦楽伴奏版)♦フォーレ作曲―
幻想曲 作品79♦ラヴェル作曲―
組曲「マ・メール・ロワ」
ボレロ※青字がパユの共演

「フランス」がテーマということで、3人ともフランスの作曲家です。
フォーレはラベルの先生だったそうです。

帰ってきた! われらが エマニュエル・パユ

パユ様が帰ってきました。
昨年末2021年12月の時は、少しお疲れ気味なのかと感じ心配したということがありました。
が、しかし。
完全復活というか、さらにパワーアップ、巨大化した素晴らしい演奏でした。

楽器が体全体と一体化していて、横隔膜と肺そして背筋が連動し呼気を自由自在にコントロールしている様子が見て取れます。

低い音は静か~に静か~に空気をさざ波のように振動させ、高い音は超音速機が「シュパー」と空を切り裂くように鋭く強くホールの空気が強振されるのを感じました。

音を一滴置くと、立体的にブウォーッとまた、ふわっと拡がって、音と音の間がとぎれずに進行していくのは演奏というより”現象”といったほうがピッタリきます。

プーランク作曲 フルート・ソナタ(管弦楽伴奏版)

本来、フルート&ピアノの組みあわせのところ、今回はピアノではなくオーケストラということで、どれだけ重層な音が聴けるのかをとても楽しみにしていきました。
3つの楽章からなっています。
ここは3楽章が圧巻。
なんと、鮮やかなホイッスル(的サウンド)で開幕!! サプライズで大興奮です。
3楽章は1,2でためたマグマを一気に噴出させするような力強く軽やかなメロディーで超音速機がピュンピュンです。
音符が飛び回り、速吹き部分も一音一音きっちり聞こえてきてこちらが汗をかいてくる。
最後は落ち着いて終わるのではなく、アゲアゲで力強く切る終わり方でかっこよすぎです。

フォーレ作曲 幻想曲 作品79

こちらも本来フルート&ピアノのための曲のオーケストラ版です。
2部からなっています。
5分程度の曲でしたが、低い・高い・流れるように・駆け上がり駆け下りが全部聴ける贅沢な曲でした。

あまりの大興奮で拍手をしすぎて、手のひらが45℃くらいにはなったと思います。

コラボレーション

オーケストラはフルートのベースに徹し、スムーズに流れをサポートしていて心地よかったです。
途中、指揮の沖澤さんに信号を送っていたりしてソリストと指揮者のコラボレーションを垣間見ることができた気がしました。

退場の時は通常、ソリスト→指揮者の順ですが、今回、ソリストが男性で指揮者が女性ということで、沖澤さんを先に?とお二人顔を見合わせていたところ沖澤さんが譲り「では、先行くね」という感じでパユさんが先に舞台袖に去っていったところもジェントルマンで素敵でした。

NHK交響楽団 マロ軍団

プーランク作曲 バレエ組曲「牝鹿」

20分程度の曲で、5曲に分かれています。
タイトルの「牝鹿」はかわい女の子を意味しているそうで、さすがバレエの曲、変化にとんだ楽しくキュートな曲です。

トランペットが楽しみ だった が

この曲はトランペットを楽しみにしていました。
1曲目の出だしをはじめ各所に聴きどころがあります。
1曲目。「かわいい女の子が何人か、キャッキャいいながらもつれあってご登場」といったメイン部を強調させる、パンチのあるメロディーのところ。

う~ん、ちょっと歯切れが悪いような感じでした。
速いテンポで一音一音弾けた音を期待していたのですが、崩れるというか音量も足りないように思いました。

2,3曲目もおとぎ話のような素敵な世界を作ってくれるトランペット活躍の場面でどうも他パートに押されて”立ってない”なと思っていましたが、徐々に上がってきて5曲目はだいぶ輝きが増してきたように感じました。
なかなか最初って難しいのかなと思いました。

全体的には気持ちよかった

3曲目ははずむような、軽やかなリズムで、ヴァイオリンとヴィオラが「ガ ガ ガ ガ」と攻めるところはめりはりがあってワクワクしました。
弦と管楽器のやりとりのところ、弦の勢いに管楽器が置いて行かれるような感じでちょっとテンポがそろっていないように感じたところがありました。

最後5曲目、“ディズニーの白雪姫と森の仲間たち”とでもいうような喜びにあふれた曲。
エンドに向け弦が開放されたかのように思いっきり厚みをましながら熱を帯びていき、ヴィオラが、悠々とメロディーを奏でるところはたいへんにかっこよく、最後爆発的なボリュームで〆ったのが気持ちよく興奮でした。

「牡鹿」とっても気に入りました。
オープニングで演奏会への期待と集中が高まりました。
この曲をTOPにしてくれて、沖澤さんありがとう!

ラヴェル作曲 組曲「マ・メール・ロワ」

「マ・メール・ロワ」はフランス語で「マザー・グース」という意味だそうです。
昔々のおとぎ話といったところでしょうか。
お話と音楽がセットになっています。
—————————————–
第1曲 眠れる森の美女のパヴァーヌ
第2曲 親指小僧
第3曲 パゴダの女王レドロネット
第4曲 美女と野獣の対話
第5曲 妖精の園
—————————————–
全体で1つの話というよりは、「眠れる森の美女」や「ヘンゼルとグレーテル」や「美女と野獣」などの名場面集になっている感じです。
この組曲はヴァイオリンのソロのカ所があり、本日のコンサートマスターはマロこと篠崎史紀さん。
マロさんの存在感あふれる硬めの高いソロが聴けたのはうれしかった。

第2曲 親指小僧
このパートは捨てられた親指小僧が、帰るための目印にまいておいたパンくずが小鳥に食べられてしまい、迷子になってしまう、という物語です。
ヴァイオリンの高い「ピヨピヨピヨ」といったソロとそこへのフルートが呼応するところを楽しみにしていきました。
ここはバッチリ「おお 鳥がパンくずを食べたな?」と風景が浮かぶようでした。

第4曲 美女と野獣の対話
野獣と思われるコントラ・ファゴット、不気味に響いてよい音でした。

第5曲 妖精の園
眠りの森の美女が目覚める場面。
ヴァイオリンとヴィオラのキャッチボールが楽しみ。
ヴァイオリンのビブラートから徐々にクライマックス、エンドの大団円に向かう盛り上がりをもうちょっと大げさにやっていただけると好みだったなと。

ラヴェル作曲 ボレロ

小さく小さく、フルート―クラリネット-ファゴット・・・と移っていきますが、なにか、ブツ切れで、それぞれ伸び伸びしていないというかアピール控えめといったように感じました。
“こぶし”は薄めで、これはこれでよいなと思いました。
オーボエとイングリッシュホルンはよい音でした。

ヴァイオリンとヴィオラのピチカートのところ、揃ってウクレレのように構えているのがかわいらしい。

次第に強くなっていくのがこの曲の最大の興奮どころですが、強いところがやたらと強く、pをもっともっと効かせてうねるような音圧があるといいなと思いながらいましたが、最後はやってくれました。
一糸乱れぬマロ軍団という感じで金管もパーカッションも重層的に全体がピッタリ合い、バリっと決まり、ここまで行くのかと最高の気分でした。

沖澤のどかさんナイス

写真はパンフレットより

沖澤さんは全体、横スライド的に強弱をあしらっていく部分はヴァイオリンを中心にまとまっていてワクっとしましたが、後方の管楽器との時間差なのかずれがあるように感じ、細かく調整していってくれるといいのかなと思いました。

ボレロでは律儀に頭から最後まで丁寧にタクトを振っていておみごとでした。

最後、大喝采で、沖澤さんは団員全員を立ってもらうように促すのですが、マロさんが「いや まだまだ拍手はあなたがお受けなさい」といった感じで起立しようとせず、沖澤さんが照れる、というような場面もあり、ライブはこういった人の心の交流を目撃できるのも楽しみの一つだなと思いました。

(2022年7月9日 Bunkamuraオーチャードホール)

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