パユ様 & アレックス・バックス

エマニュエル・パユ、ピアノのアレックス・バックスのデュオコンサートが開かれた。

曲目は
バクリ:フルートとピアノのためのソナタ 第3番 Op.156
フランク/パユ編:ソナタ イ長調(原曲:ヴァイオリン・ソナタ イ長調)
クララ.シューマン:3つのロマンス Op.22 (原曲:ヴァイオリンのための)
メンデルスゾーン:ソナタ ヘ長調 (原曲:ヴァイオリン・ソナタ ヘ長調 MWV Q26)

バクリ:フルートとピアノのためのソナタ

息をたっぷりとすい重厚かつ伸びやかな滑り出し。
徐々にスピード、ボリュームを増していき、パユ奏法とでもいいたい「篠笛的こぶし」もちりばめられ、息をのんで聴き入ってしまう。

曲調としては、いくどか聴いただけではメロディーを口ずさむということはなかなかむずかしいタイプの曲だと感じた。
半面、フルートの楽器としての能力を最優先して音符を置いているような、フルートが自由を謳歌する曲のようにも感じた。
4楽章はガラッと雰囲気をかえ、華やかでリズミカルな展開に心拍数があがってきた。

作曲者のバクリさんは、パンフレットによると1961年生まれの現代フランス音楽界での人気作曲家。
この曲はフランス・フルート協会がフルーティストのジャン=ピエール・ランパル生誕100年記念としてバクリに委嘱したもの。

2022年7月にパユ&バックスで初演されたとのこと。

一音の響き、輝き、音と音のリンク、強い・弱い、表情、すべてが緻密に磨き上げられているパユ様フルートを前提に作曲されたことに疑いの余地はない。
バクリさんは演奏会場にいらしていた。

バックスさんのピアノ


アレックス・バックスさんはイタリア出身、数々のコンクールで受賞経験があり、1997年には第3回浜松国際ピアノ・コンクールで優勝している。

バックスさんのピアノはまっすぐな音がボリューミーに流れる。
引きすぎずに適宜押し出してくる存在感は、必要なものを必要な時少し前に配してくるできるバーテンダーのようだった。

フランク/パユ編:ソナタ イ長調

本日の3曲はすべてヴァイオリンのための曲だ。
主のヴァイオリンをフルートに置き換えるという素晴らしいアイデアのシリーズである。

メロディーがあり、とても聴きやすい曲だ。

ヴァイオリンでは、ちょっとメランコリックな雰囲気からの第1楽章だが、フルートでは、健康的なスタートに感じた。

2楽章。これがすごかった。
バックスのピアノがフォルテシモ全開、それをパユ様が一歩も引かず受けて立っている。フェンシングで剣を交わし合っているようなヒリヒリ感さえ醸し出している。
正直、ちょっとピアノは大きすぎるのではないかと思った。
4楽章にいくと、フルートとピアノが強く呼応しあい、2頭の昇り龍が並行して勢いよく天へ突き抜けていくかのような迫力で、両者は完全にシンクロした。

マックスのところではフルートの音はホイッスルのようにホールを割き「えええええ!!!!!」と初めて聞く音色。
これが銀座四丁目交差点だったら、新橋まで聞こえるのではないかと思うほどだ。
いったいどれだけの肺活量なんだ!

息をのんだ会場からは喝采の拍手鳴りやまずであった。

クララ.シューマン:3つのロマンス

クララ.シューマンはロベルト.シューマンの妻。

おしゃれなカフェで、聞きたいかわいらしい曲。

中低音がしっとりと奏でられ、うっとりだ。
装飾音がコントラストで光る。
柔らかい表情のつけかたがヴァイオリンよりもフルートに向いているように思った。
パユ様だからそうなのだとも思うけれど。

メンデルスゾーン:ソナタ ヘ長調

晴れがましい素敵な曲だ。

4楽章、ヴァイオリンの速弾きのところ、いったいどうやるの?
と興味津々聴いていたら、まったく違わず吹かれていた。

息と指が少しのズレなく精緻にフル回転している。
目まぐるしく動く音階と遊んでいるかのよう。

速くなればなるほどルンルンな感じで吹いている姿は神。

ああ、終わらないで~。

アンコールもしてくださった。
J.Sバッハ:ソナタ ロ短調 BWV 1030 第2楽章ラルゴ・エ・ドルチェ。
清らか。興奮した全身をクーリングダウンしてくれた。


パユ様とバックスさんが”剣を交わし合った”フランク:ヴァイオリンソナタ2楽章。
演奏はヴァイオリンとピアノ。ヴァイオリン:クリスチャン・フェラス ピアノ:ピエール・バルビゼ 1957年5月15日~19日。

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(2023年9月28日 王子ホール)
※写真はパンフレットから。

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