トヨタ・マスター・ プレイヤーズ、ウィーン 2025

トヨタ・マスター・ プレイヤーズ、ウィーン に行ってきた。

ウィーンフィルのメンバーを中心にほかミュージシャンで編成される室内オーケストラ。
昨年、一昨年は「ウィーン・プレミアム・コンサート」のタイトルであったが、今年は「トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーン」になっていた。

曲目は
モーツァルト:歌劇「後宮からの逃走」序曲
モーツアルト:ヴァイオリン協奏曲 第4番
ベートーヴェン:劇音楽「エグモント」序曲
ベートーヴェン:交響曲 第1番

ヴァイオリン独奏は待ってました! 
ウィーンフィルのコンサートマスター=フォルクハルト・シュトイデさん。

モーツアルト短編とシュトイデさんの協奏曲。
ベートーヴェン短編と交響曲1番。
一般人にやさしい軽やかなラインナップがうれしい。

モーツアルト:歌劇「後宮からの逃走」序曲

「後宮からの逃走」のストーリーはおおまか次の通り。
スペインの貴族ベルモンテの恋人コンスタンツェが海賊の捕虜になってトルコ太守の宮殿に連れてこられた。
ベルモンテが助けに宮殿に入り仲間と逃走を試みるもみつかる。
絶体絶命であるが、トルコ太守は徳をもって釈放する、というお話。

スペインの貴族が、泣く子も黙る死を恐れぬ戦士=イエニチェリをもち西側に勢力を拡大し続けている大帝国=オスマン帝国(トルコ)に捕らわれるとは恐怖のどん底である。
そこから逃走を図る緊迫感、そして最後は大団円。
「後宮からの逃走」序曲には、この要素が詰め込まれている。

特に聴きたかったところは、2点。
・出だしのオスマン帝国の感じ。
オスマン帝国のシンバルをジャンジャン鳴らしながら行進する感じをモーツアルトはなんてきれいなメロディーにするのでしょうか。
・続いての大逃走ハラハラドキドキ、焦って焦っての感じ。

さて、トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーンのみなさんの演奏は。
速めの勢いのある速度で世界に引き込んでくれた。
・”トルコ風”は軽やかなヴァイオリンの入りから元気よく、シャンシャンシャーンときてうれしい。
・大逃走のところ、これがすごかった。
アセアセ感はいったいどうやって生まれてくるのだろうと思っていたら、その秘密は第2ヴァイオリンにあることがわかった。
速く速く小刻みに。でも豪快に刻みまくっている。かっこいい。
今日は第2ヴァイオリンに注目だ。

「後宮からの逃走」序曲 トルコ風

「後宮からの逃走」序曲 大脱走

モーツアルト:ヴァイオリン協奏曲 第4番

マスター・プレイヤーズは指揮者がいない。
芸術監督のシュトイデさんが、独奏者でありながら入りはご自身も一緒に弾かれておしゃれー。

キリリとした4番であった。
シュトイデさんのヴァイオリンは強く清い。
硬質なつやをもつ一音一音がくっきりとした輪郭で響く。
30メートル先から針の穴を通すような正確無比の揺るぎない音だ。
一切の雑味なし。

切れ味鋭く弾き倒すという感じ。
モーツアルトのちょっと遊んだ感じは封印といった様相。
それでいて、シュトイデさんは何気ない。
ホームで電車をただ待っているようなたたずまいなのだ。

ブラーデラーさんのコントラバスは柔らかく、ヤネツィックさんのホルンはいつも控えめではあるが、聴こえないくらい。贅沢だ。

ベートーヴェン:「エグモント」序曲

エグモント序曲は、弦が重なった不思議なリズムと響きが魅力だ。
本物が聴けた。
弦の方々が一斉に呼吸を合わせて全力で奏でて生まれる音は期待をはるかに超える重厚感。
肋骨にゴンゴン響いてきて「これかーー」と感動であった。

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演奏:イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 1958年11月25日録音

ベートーヴェン:交響曲 第1番

1番は出だしに注意である。
弦のピチカートと木管が小さくもインパクトで入る。時折ズレる。
今回はどうかと息をこらしていたら、ズレた。
難しいのだな。

ゴリゴリの1番であった。
シュトイデさんの推進力で、終始力強い進行だ。
軍隊のようなメリハリのきっぱりとしたリズムのベートーヴェンだ。
聴いているだけで汗ばんでくるくらい。
のんびりの2楽章でさえ容赦ない。
しかし、ピアノになるところではコントラバスがふくよかに全体を覆いチェロが優しい。
トランペットは小編成にマッチした張りすぎずほどよく割って響くとてもよい音であった。

ウィーンだからといっていつもふんわりと思うなよ、というわけでもないであろうが、強烈な1番であった。
元気でスピード感のある曲なので、今回の演奏はとても気に入った。

アンコールも2曲やってくれた。

◎ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「ディナミーデン」 Op. 173
◎J.シュトラウスII:ポルカ・シュネル「ハンガリー人万歳!」 Op. 332
曲の紹介をコントラバスのニーダーハマーさんが日本語でしてくれた。うれしい。

ウィンナワルツも硬派寄りでニューイヤーコンサートとは一味違ったように感じたが、シュトイデさんのヴァイオリンは華やぎバージョンであった。
ピッコロが「ん チャッチャ」の「チャッチャ」を担当されていたのが発見であった。
「ハンガリー人万歳!」では、最後掛け声で締め、大変盛り上がった。

※写真はチラシより

2025年4月23日 サントリーホール

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