MDRライプツィヒ放送交響楽団と体育会系クリスチャン・ヤルヴィ

MDRライプツィヒ放送交響楽団が来日しています。

「ドイツ共和国」のMDRライプツィヒ

ライプツィヒはドイツの東、旧東ドイツのザクセン州の都市です。
MDRというのは中部ドイツという意味で、ザクセン州、ザクセン=アンハルト州、チューリンゲン州を舞台に活動する楽団だということです。

ザクセン州にはもう一つかっこよいオーケストラ、ミヒャエル・ザンデルリンクが今年まで主席指揮者を務めるドレスデンフィルがあります。

MDRライプツィヒは創設が1923年です。
第1次世界大戦が終わりドイツが「ドイツ帝国」から「ドイツ共和国」となったのが1919年ですからその4年後のことです。
ちなみにドレスデンフィルの創設はドイツ帝国が成立した1871年の前年の1870年。
「ドイツ帝国」のドレスデン、「ドイツ共和国」のMDRライプツィヒ、それぞれどのような特徴なのかと興味を持って臨みました。

曲目は
・J.Sバッハ(メンデルスゾーン編曲):管弦楽組曲第3番より「序曲」
・メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
・ブラームス:交響曲第1番

クリスチャン・ヤルヴィ

指揮は音楽監督のクリスチャン・ヤルヴィです。
ヤルヴィというえば、そうNHK交響楽団の首席指揮者、パーヴォ・ヤルヴィが日本人にはなじみ深いところです。
このクリスチャン・ヤルヴィは、パーヴォの弟だそうです。

髪型の効果なのか、いわれないと兄弟とは気が付きません。
パーヴォは大柄で、子供の頃から部活も音楽部といった文化部風情にたいし、クリスチャンはわりあいと小柄で部活でいったらサッカー部、運動部風のしっかりした体幹で弾むように登場されます。

岡本誠司

今回の目玉の一つが岡本誠司さんのヴァイオリンです。
1994年(平成6)生まれで、東京芸術大学卒業とのことです。25歳の若さで2014年から多数のコンクールで優秀な成績に輝き国内外の交響楽団と共演の経験を持つという新鋭です。

メンコン

メンデルスゾーン ヴァイオリンコンツェルト。
小学校の音楽鑑賞で流れ、当時CMで使われていたこの曲に睡眠時間のはずだった教室が沸きに沸いた。
この曲を聴くたびにそんな思い出がよみがえる、それほど親しみやすいこの曲も、本物を全部聴くのは初めてでした。

入りのヴァイオリンが「サワサワサワ サワサワサワ」と始まったのだかまだなのかわからないくらいささやかに奏でられる様子を絶対見たいと思って息をのみ待ちました。
すると、案外と「タラリラタラリラ」とあっさりと始まりました。
そして岡本ヴァイオリンによる、万人が口ずさめるメロディー。
キレイです。
丁寧に弦を弾いて”その音”を混じりけなく伝えているという感じ。
細かく指を使う箇所も一つ一つクリアにキレイにこなしていく。
正確で揺れがなく、フォルテのところはキリリーーーと奏でる美しさは体操の内村航平選手の演技がイメージされます。
清い音を奏でる清き青年でありました。

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メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲入りのところ
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(Vn.ハイフェッツ ミンシュ指揮 ボストン交響楽団 1959年2月23日&25日録音)

ブラームス:交響曲第1番

こちらも入りのところが大変楽しみにしていました。
ティンパニーが静かにゆっくりと、世界を創っていく空気を感じたいと集中していたら、ヴァイオリン協奏曲同様、ティンパニーがわりあいとあっさり普通の音でテンポも速め、ちょっと置いて行かれたような気になって少し慌てました。
もったいつけず、どんどん行く、という感じで進行します。
弦がバラバラっとするところがあったり、トランペットやホルンの金管楽器が音を飛ばしたように聞こえたり、ちょっとスリリングです。

ホルンのソロはいいですね。そしてフルートも素敵です。
気が付いたのが、弱い箇所をあまり弱くしていないのだなということです。
演奏はいろいろあるものだなと思いながら、いよいよ最終4楽章です。
4楽章といえば、突然歌のようなシンプルな、しかもなんとなくベートーベン第9に似たようなメロディーが登場し、以降最高な盛り上がりを見せる聴き場です。
これが凄い。えー、そうきたかーーー、と思わせる最強に強い音で”ここぞ”とばかりにバンバン思いっきりぶつけてくる演奏が繰り広げられます。
クリスチャンは両手両足を運動のように動かしながら、指揮台でジャンプしています。
結構な高さ、50cmくらい?
これまでの小さな感想が全部吹き飛ぶ爽快さ!
細かいこといいから、好きな部分思いっきりエンジョイしようぜ、といったクリスチャンの体育会系クラシックが披露されたように思いました。

アンコールでは、なんとベートーベン第9の一部分を聴かせてくれたのです。
クリス最高!

そういえば、楽団員入場の際、多くはスタスタと舞台に入ってきてそれぞれの椅子に静かに着席するスタイルですが、ライプツィヒのみなさんは入ってきたら、自分の位置で客席の方を向いて起立してくれているのです。
なんとうれしいサービス精神。
こんなことも含めて、お堅くなく楽しませてくれる、そんなクリスチャン・ヤルヴィ&ライプツィヒでした。

今日の一曲

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ブラームス第1番4楽章、第9っぽいメロディーのところ
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(ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団。録音:1959年2月8日)

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