パユ様 ソロ

フルートの貴公子ならぬフルートの皇帝、エマニュエル・パユ様のソロ・コンサートが開催されました。

場所は東京オペラシティ コンサートホールです。
このホールの収容人数は1632人。
ほぼ満席でした。

このステージにパユ様一人そしてフルート1本。ただ、それだけ。

曲目は
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第1番
ヴァレーズ:密度21.5
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第10番
カーター:スクリーヴォ・イン・ヴェント
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第2番
ベリオ:セクエンツァⅠ
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第5番
オネゲル:牝山羊の踊り
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第6番
カルク=エーレルト:ソナタ・アバッショナータ
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第7番
CD「Solo」からの曲がほぼです。

演奏のスタイル

この11曲が休憩なしで次々と繰り出されるのです。
曲と曲の合間も口元からフルートを放しません。
フルートを下ろして、少し水を飲まれたのがわずか2回だけです。
拍手の間もとりません。
曲の間の静けさ、これがフルートで流動した空気を落ち着かせ、静寂さえも演奏の一部であるのだということが体感できました。
最後の曲は、終盤演奏しながら袖の方へ歩いて退場し、音がだんだん小さくなっていって消えていく、という演出。
これも、終わってすぐ拍手音で空気が破れないように、という意味なのでしょう。
少しのサプライズ&おちゃめさもあって、最後の拍手喝采はより盛り上がりました。

曲について

曲はフルート素人にはまったくとっつきが悪く、メロディーが口ずさめるものは1曲もありません。
ただ、それでもテレマンの幻想曲シリーズはなじみが出てくると歌うようなフレーズがあります。
テレマンは18世紀の作曲家ですが、それ以外は20世紀・現代の作曲家です。
18世紀テレマン6曲の間に20世紀の曲がサンドイッチになっている構成です。

現代の作曲家による作品は、曲というよりは「フルートという器を究極使い倒してどこまでどのような音が紡げるのか」の祭典といった様相でした。
特にセクエンツァⅠは、雅楽の横笛のような篠笛のような・・・フルートからこんな音が発せられるのかと新鮮でした。

流れる音、強い音、弱い音、キレのある音、裂けるような音、しぶきのような音、透き通る音、高い音、低い音、突き抜ける音、震える音・・・。

とにかく自由自在、1600人の会場いっぱいに奏でられる音の粒子がボリューミーにスピーディーに駆け巡り、全身に降り注がれてきます。
金色のフルート本体も照明の光にキラキラキラ輝いて視覚的にも飽きることがありません。

オーケストラでもフルートというのはこんなにも大きな音で奏でられているのかというのも発見です。

一番驚いたのは、蚊の羽音くらいのよわーい音が30秒くらいほそーーーく演奏されたところです。
また、空気を送り込まないでキーを叩いてタンポを”パフパフ”と鳴らす技も初めてでした。

50歳を目前に円熟しきったパユが自身で選択した曲を自身が決めた順序で聴くのだという期待感は十分満たされました。

世界最高峰のフルーティストが世界最高峰の楽器で、自身が構成したプログラムでパユ・ファンタジーの世界に招いてくれる、そんな絶対幸福な時間でした。

今日の一楽章は

play_circle_filled
pause_circle_filled
テレマン:独奏フルートのための12の幻想曲集第1番 イ長調
volume_down
volume_up
volume_off
演奏はジャン=ピエール・ランパル(録音:1963年10月9日)

関連記事

  1. ロシア国立交響楽団のチャイコフスキー

  2. 樫本大進&エリック・ル・サージュ ヴァイオリンソナタ

  3. ヤナーチェク・フィルハーモニー管弦楽団

  4. パユ様 with N響

  5. 仲道郁代+金子三勇士

  6. スロヴァキア・フィルのドヴォルザーク

  1. 小林秀雄のモーツアルト評「モオツァルトのかなしさは疾走する。涙…

  2. モーツアルト交響曲第35番「ハフナー」。ハフナー家のための曲

  3. モーツアルトと父レオポルト

  4. ベートーベン「不滅の恋人への手紙」。不滅の恋人は誰か。

  5. 【新説!】ベートーベン交響曲第3番「ボナパルト」から「英雄」に変…

  6. マーラー交響曲第1番『巨人』。『巨人』とつけた理由は?

  7. ベートーベンの弦楽四重奏曲の「ラズモフスキー」の意味

  8. チャイコフスキーの死因

  9. モーツアルトのオペラ「魔笛」はフリーメイソンのための曲

  10. ベートーベンのパトロン 時代による変遷

  1. チャイコフスキー交響曲1番 「冬の日の幻想」さび

  2. ウィーンが「音楽の都」の理由。それはハプスブルク帝国の首都にあ…

  3. ムソルグスキー作曲『展覧会の絵』の「キエフの大門」はウクライナ…

  4. モーツアルトの生まれたザルツブルクは「ザルツブルク市街の歴史地…

  5. チャイコフスキー交響曲第2番『小ロシア』改め交響曲第2番『ウクラ…

  6. モーツアルト交響曲第36番の「リンツ」38番の「プラハ」はハプスブ…

  7. モーツアルト、ベートーベンをビッグにした「ハプスブルク帝国」と…

  8. ベートーベンのパトロン、ラズモフスキーはコサックのリーダー=ヘト…

  9. チャイコフスキー作曲のオペラ『マゼッパ』はウクライナの英雄

  10. ナポレオン 戦争とベートーベン交響曲年表