ゲルギエフの「悲愴」

ああ、この時がやってきました。
ワレリー・ゲルギエフのマリインスキー歌劇場管弦楽団のチャイコフスキー交響曲2本です。

入場前から

開場時間を過ぎても入場待ちでした。
理由は、リハーサルが長引いている、ということです。
ゲルギエフとマリインスキーという磨かれ切った方々にいったいどんなリハーサルが必要なのだと思う一方、しっかりリハーサルしてくれてるのだなと思うとうれしくもあります。開かない扉の前で「今この中でリハーサルが行われている」という、Amazonで購入した商品が「出荷しました」となり到着を待つような、そわそわとまた一つ楽しい気分でした。
ロシアのプーチン大統領は時間通りに現れたことがないことで有名なので、ロシアの人の傾向なのかもしれませんが、ゲルギエフとプーチンは違うのだと信じたいところです。

チャイコフスキー交響曲第1番

演奏者は階段状に並び、指揮台はありません。
ゲルギエフが舞台袖から存在感満々で登場すると、すぐに始まります。
1番の出だし、小さな小さな弦です。呼吸をひそめないと聞き逃しそうなほどの繊細さです。
そして、フルートもきれい。

全体、ゲルギエフは前かがみになってバイオリンの方に寄っていって左手のひらの指先を細かく細かく動かして、弱く小さな音色を徹底的にコントロールしているのが見て取れます。

弦はふわふわと集まってきた綿花がミルフィーユ状に何層にも重なって膨らんだり揺れたりするような柔らかい流動感、これがフォルテになると芳醇さほとばしるようで、ピアニシモが小さいほど、全体の表情が豊かになってくるのがわかります。
また休符が長めでまったく音のしない空間が作られていたのもミニサプライズでした。

コントラバスがキレがよく、強めにアクセントになるようで新鮮でした。

チャイコフスキー交響曲第6番

出だしのオーボエをしっとりと聞いて、弦のやりとりに包まれます。
弦はあまり”タメ”ないでさらっとした演奏で、タメは定番でないのかと発見でした。
また、2楽章では”たっぷり”ではく、微妙に早めに次の音に行くような変則なリズに聞こえ、ちょっと体温上がる感じでした。

そして、待ちに待った3楽章。
これまでピアニシモ、ピアニシモに神経を集中させていた場面から助走を始め、背中をかがめていたゲルギエフが仁王立ちとなり盛り上がる。そして、両手を左右にバっと広げると同時に全楽器がバリっと決めていったんまたピアノに、これがかっこよすぎ。

歓喜爆発のところではゲルギエフはタテノリでジャンプ、同時に演奏者も全員が一瞬浮いて見えるほどの躍動感。
金管楽器の厚みとボリューム、そしてシンバルの鳴り、ロシアの楽団の醍醐味を満喫しました。

4楽章はただただこの時がこのまま続いて欲しい、ずーーーっと終わらないで、とひたすら願う時間でした。
最後、いつ終わったのかわからないのがこの曲ですが、今回はさらに、演奏が止まってからかなり長い間、ゲルギエフは指揮の姿勢を終えず、拍手するまでに3分程度(?)の間がありました。

映画の場面が切り替わるように音楽が切り替わる。
ゲルギエフの指先に楽団員が一心同体のように集結する様子は、ゲルギエフが脳で楽団員は細胞の「大怪獣ゲルギー」降臨といったかっこよさでした。

今回、会場に聴きにいらしていた方々は、立ち話を耳にするにかなりクラシック音楽に精通されたハイソサエティな方が多かったようです。
「〇〇で弾いています」とか「(音楽系の)〇〇団体の理事をしていました」などなど。みなさん、すごい。

蘊蓄あってのクラシックと思われがちですが、このブログでは、クラシックの基礎知識ゼロ・音楽理論ゼロを基調に「メジャーなクラシック交響曲の好みのメロディーをみつけ、音の強弱に驚く」姿勢でやっていきたいと思っています。

今日の一楽章は

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第6番3楽章「助走を始め盛り上がっていったんまたピアノ」のかっこいいところ
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ムラヴィンスキー指揮 レニングラードフィル 1956年6月録音

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