エマニュエル・パユ、久しぶりのオーケストラ共演です。
曲目は
チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
サン=サーンス:オデレット 作品162
サン=サーンス:ロマンス 変ニ長調 作品37
シャミナード:フルートと管弦楽のためのコンチェルティーノ ニ長調 作品107
バルトーク:管弦楽のための協奏曲
指揮はギエドレ・シュレキーテ
フルスロットルのサン=サーンス、大冒険シャミナード
オデレット
サン=サーンスはフランスの作曲家。
フランスの音楽といえばパユ様が庭とするところだ。
2曲ともとてもかわいらしい曲で「今日はひたすらうっとりと聞こう」と臨んだ、がしかし それは許されなかった!
とんでもない、大旋風。
強く輝く音ひとつひとつが踊り絡まりながら目(耳?)まぐるしく繰り出される。
静かな部分と強い部分がうねりのようにつながって届いてくるかと思うと、弱くもキレのある音のつぶが撒かれるような、表現の多彩さに脳幹が揺さぶられる感じ。
息継ぎさえ、音楽だ。
ロマンス
少し雰囲気が変わる。
たっぷりと響く低音から高音はふくよかに突き抜ける強さに大人の奥行と深さをあじわった。
フルートと管弦楽のためのコンチェルティーノ
シャミナードもフランスの作曲家、女性だ。
ロマンスは歌いたくなるようなフルートの愛らしさ満載の曲。
パンフレットによると、パリ音楽院フルート科の修了コンクールの課題として作曲された作品で、フルートのあらゆる技巧が含まれているとのこと。
入りはやさしい。
甘~いメロディー、そして澄んだ音がパユ様がシャミナードをエスコートしているかのように美しく響いてくる。
風景としては、春先の広い草原を優しくもヤンチャな王女様が走り回っているようなイメージがうかんでくる。
パユ様にかかるとその王女はただものではなくなる。
“フォース”が強いのだ。
かわいらしいだけでなく、冒険心にあふれ行動力みなぎる、スターウォーズでいったらレイア姫。
パンフレットをみると”シャミナードはブルジョア家庭出身女性は家庭に入ることが当然とされていた時代に、才能を理解してくれ助け合える男性と結婚する意志をもち44歳で叶う男性と結婚、キャリアを継続した”という。
シャミナードとレイア姫が交差するかのような、女性の強いフォースを応援してくれるような演奏だった。
シンバルは鳴っているか ティンパニは吠えているか。おもちゃ箱はひっくり返っているか
ロメオとジュリエット
シンバルは鳴っているか ティンパニは吠えているか。
これを聴きたく臨んだ。
同時に、入りの静かな静かなファゴットとクラリネットがどれだけ静かなのかも大変楽しみだった。
入りは想像していたよりも静かでなく、テンポもわりと早めだった。
各パートが入っていくポイントはピタと決まっておらずどろどろっとした感じ。
なんだかぼんやりしていて、指揮はもう少しきめこまかくてもいいのではと感じだ。
しかし。盛り上がりのところ、これは素晴らしかった。
よし!キターと全員の息がバッチリ合って迫力満点。
シンバルは鳴り響き、ティンパニは吠えた。
激しく盛り上がる場面は2カ所ある。両方ともモンタギュー家とキャビュレット家の対立を表しているとのこと。
後半、弦がほとばしり、ガンガンに鳴らしてくる金管のボリュームもよき。
コントラバスがかっこよい。
ヴァイオリンの速弾き生演奏を聴きそして目撃できてたいへんうれしかった。
バルトーク管弦楽のための協奏曲
ロメオとジュリエットで不安もよぎっていたが、この曲はバリっとキマっていた。
各楽器の特性に合わせた不思議な音やリズムが継ぎはぎで披露されてくる感じの曲であり、”飽きる”可能性を個人的に秘めていた。
しかし。集中が切れることはなかった。
“継ぎはぎ”の輪郭が立っていて、次に次にとワクワクしてきた。
ヴァイオリンが東欧っぽい色で合っていたようにも思う。
楽しみにしていた4楽章で急に雰囲気が変わって、子ども向け映画でおもちゃ箱がひっくりかえったような場面で聞こえてきそうなところも楽しく満足。
しぶいと思っていたバルトークが好きになった。
ギエドレ・シュレキーテさんの指揮がオーケストラと完全に一致していたのではないだろうか。
シュレキーテさんの指揮は細見で手足の長い身体を伸びやかに使い、フレッシュだ。
シュレキーテさんは1989年、リトアニア生まれだそう。
1989年といえば、アメリカのブッシュ大統領とソ連のゴルバチョフ最高会議議長がマルタ共和国のマルタ島で会談し、冷戦を終結させた年だ。
そのときリトアニアはソ連領、翌1990年に独立回復を宣言した。
ギエドレさんは、リトアニア独立回復の申し子的存在といってもよいのではないか。ロシアがこんなになっている現在、ますます彼女を応援したい。
今日は2曲。
演奏:ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1964年4月14日録音
演奏:ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1965年9月録音
(2023年9月22日 サントリーホール)
写真はパンフレットより。