ヴィオラ奏者アミハイ・グロスAmihai Groszのリサイタルに行ってきた。
ピアノとのデュオ。ピアノは三浦謙司。
ブラームス:ビオラ・ソナタ第1番
ブリテン:エレジー
ブルッフ:コル・ニドライ
ショスタコーヴィチ:ヴィオラ・ソナタ
ヴィオラの多様な表現を体感
玄人向けのラインナップである。
暗い。とにかく暗い。
ブラームスは3、4楽章が軽快なのでギャップを楽しみにしていったが、これもベールがかかったような演奏で弾んだ風ではなかった。
ただ、ベールといってももっさりとした覆いではなくビロードのベールといったところ。
全体たっぷりとした音圧で、広い原野を風にのってたゆたっているような雄大な演奏だった。
ブリテンのエレジーは、ブリテンが16歳で作曲したというものだが、青少年の新鮮さとのようなものは一つもなく、これをグロスが使用する1570年製のガスパーロ・ダ・サロが静かに奏でた。
ブルッフ自身はドイツの作曲家だが、コル・ニドライはイスラエルの古い聖歌を元にした曲だそう。
グロスはイスラエル出身。とはいえなにもわざわざ暗い曲を選曲しなくてもよいのにな、と思っていたが、聴いてみると大変よかった。
魂が乗っているようで、暗く始まるも最後は光がさし次章が始まるぞ、というようなカタルシスを味わうことができた。
さて、ショスタコーヴィチ。
ショスタコーヴィチが死の5日前に完成させた曲だそう。
特有の難解曲で、正直睡魔との戦いに挑まざるをえないかと臨んだが、とんでもなかった。
体細胞すべてが覚醒。変な話金縛り状態となる。
小さい小さいピチカートから始まり、キリキリと小刻みに鳴らす、なめらかに高らかに歌う、ウクレレのように弾く、強く切る、あらゆる奏法が次々と披露され、変化に富んだ音が怒涛のように繰り出されてくる。
畏れとか命とか願いとか、グロスにショスタコーヴィチが乗り移ったかのように、現在のロシアのウクライナ侵攻のなかで聴くとなおさらリアルに迫ってくる。
三浦さんのピアノが怖い怖い。
全体図抜けたスケール感がすごかった。
ヴィオラの巨人
ヴィオラはオーケストラのなかでははっきりいって目立たない。
ヴァイオリンとチェロをつなぐ黒子だといわれているが、今回それを再認識した。
ヴィオラがあるから、全体の厚みがでるのだと。
しかし、ヴィオラのよさは単体で聴いてこそ、ということもわかった。
最強で奏でる時、体全体でおもいっきり弾き切るところがとてもかっこよい。
グロスはヴィオラの巨人だ。
写真はチラシ、Amihai Grosz websiteから。
2023年2月26日 武蔵野市民文化会館