セミヨン・ビシュコフ指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、スメタナ「わが祖国」

セミヨン・ビシュコフ指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、スメタナ「わが祖国」 に行ってきた。

曲目は
スメタナ:連作交響詩「わが祖国」

「わが祖国」はボヘミアの風景と戦争の歴史絵巻

ボヘミアは現在のチェコの約西半分の地域。
ヨーロッパの中心部で様々な勢力との闘いの歴史がある。
スメタナが生きた19世紀(1824~1884年)はオーストリア帝国の一部となっていた。

そのボヘミアの苦難と強靭な歴史を風景と戦争(伝説も含め)で紹介したのが「わが祖国」だ。
第1曲 風景その1 高い城
チェコ民族国家建国の聖地のヴィシェフラフト城。
第2曲 風景その2 モルダウ川
チェコ語でヴルタヴァ川とその周辺の様子。
第3曲 戦争その1 「乙女戦争」の主役女性シャールカ
男性の不誠実に対して武力で戦った女性たちの物語。
第4曲 風景その3 ボヘミアの森と草原から
自然とそこに暮らす人々。
第5曲 戦争その2-1 「フス戦争」の基地ターボル
宗教改革を先導したフスが処刑され、フス教徒らがローマ教会に闘いを挑み敗北。
第6曲 戦争その2-2 敗れたフス教徒の英雄が眠る山ブラニーク
絶望的であった闘いに最後は勝利し栄光の歴史は未来への希望につながっていく。
現在のチェコ共和国の宗教人口はローマカトリック10%、無信仰68.3%(資料:外務省ウェブサイト)

今日は、地元チェコフィルが(日本人もいらっしゃる)お国紹介をしてくれるのだ。

わが祖国「モルダウ」。泣いてしまった

本日の大注目点は、モルダウ川の流れだ。
2本のフルートがどうなのだろうかと。
うっとりであった。
冷たい支流、温かいもう一つの支流、独自に流れてきた二つの流れが合わさってぶつかりながら融合して流麗に進んでいく。
この情景が2本のフルートがふるふると響きあって浮かんできた。
オーケストラではあるが、2人のフルート奏者の真剣白刃取り勝負といった研ぎ澄まされた息遣いを目の当たりにした。
フルートは3人おられて、後半は交代していらした。お疲れ様でございました。

本日の大注目点その2は、ヴァイオリンのところだ。
この部分は最高に気に入っていて、かわいらしく楽しい演奏を期待していた。
全然超えた演奏であった。
必要以上に跳ねるわけではなく、あざとさとは無縁。
だが細密に丁寧なメリハリがあって最高に素敵。じ~んと泣けてきた。

「モルダウ」ヴァイオリンのところ
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演奏:ヴァーツラフ・ターリヒ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1954年6月10日~12日&21日, 7月2日~3日録音

ピッコロの切り裂く急流な感じもとってもよかった。

チェコフィルの弦は体を溶かし、管はビタミンをくれる

チェコフィルの弦、最初の一弾きで体が溶けてしまう。
厚いのだが軽やかで統率がとれていてふわっと湧いてくる不思議。
ビシュコフがこの”ふわっと”のキレ、繋ぎ、強弱、速度を一瞬の隙もなく色づけして都度都度わくわくする。

第1曲 冒頭のハープ。美しく力強くまろやか。耳にしまっておきます。これが聴けてもう今日はよかったです。
第3曲 戦争の曲であるが、ちょっとロマンチック。
チェロがなんてきれい。
第4曲 大自然。森がうごめいている。
ヴァイオリン、木管が分子レベルで共鳴して大自然の呼吸のように常に流動している。そこにホルンが金管的な音色で生命力を注いでくる感じだ。
この曲を今日の方々で聴けてよかった。
第5、6曲 戦争。オーケストラが一体化してズン、ズンとすごい重厚感だ。
盛り上がりの大フォルトの時もヴァイオリンは力みなく自然体なのだが、音の装飾が立体的であるためにとても力強く聴こえる。
第6曲はちょっと弦が細かくひたすら刻み続ける個所があって退屈を予感していたのだが、刻みかたも一定でなく動的でそこに管楽器が乗って、各管部門がキリリと立っていて全く飽きる暇がなかった。
オーボエのソロはとうとうと響き渡り大変に良き音であった。

通常コンサートでは「モルダウ」だけの切り抜き演奏が多いが、「わが祖国」はやはり全部聴かなければいけない、と固く思った。
しかし、やりきるオーケストラは限られているのかも、とも思う。

ビシュコフさん、休憩なしの1時間半弱全力使いました、という感じであったが、こちらは大拍手を続けずにいられなかった。

※写真はチラシより

2025年10月20日 NHKホール

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