「ウクライナ国立歌劇場」、これまでは「キエフ・オペラ」として日本公演を行ってきましたが、2022年2月のロシアの侵攻をうけ名称を変更し力強く戻ってきてくれました。
演目はビゼー作曲オペラ「カルメン」です。
プリマドンナ・カルメンと闘牛士・エスカミーリョ
注目したのは、2点です。
・ジプシーの美貌の女ボス・カルメンのただれた色気の度合い
・闘牛士・エスカミーリョがどれだけかっこよいか
はずれたカルメン像
カルメンはこの視点がはずれました。
演じたのはプリマドンナのアンジェリーナ・シヴァチカ。
登場では多少ただれていたものの、全体的にはエネルギッシュで純粋な女性のイメージを持ちました。
4階席にもビンビンに届いてくる伸びやかかつふくよかな歌声に包み込まれ、”その世界”に自分も入りこんでいるかのよう。
幕間にロビーでシヴァチカさんのメッセージ動画が流れていて、合点がいったのは、彼女自身の健康的で朗らかな性格がこのカルメンを作っているのだなということです。
最後、ホセに刺殺される場面も悲劇ではあるのだが悲惨すぎず、熱情を燃やして生き切ったという風にみえたのが、自分として新しくとても好きになりました。
闘牛士の魅力はもうひとつ
エスカミーリョはとにかく、かっこよいスターであって欲しいという願望があります。
闘牛という、今日死ぬかもしれないショーで身を立てる人間のギンギンの狂気的な強引さ華やかさが魅力だと思うからです。
今回のエスカミーリョはそのイメージとは違いました。
歌声は迫力あるバリトンで文句はないのですが、身のこなしにキレがないというか。
ホセ 主役の男性
ホセを演じたのはドミクロ・クジミン。
酸いも甘いも噛み分けた経験豊富な女ボスに翻弄される純朴なおぼっちゃま感がよくでていました。
細めのテノールが情けない感、必死感をかもしだしていて今風だなあとおもしろかった。
?と思ったのは、人の声が小さく聞こえてきて、そでで誰か話しているのかなと思っていたら、どうやらそれはホセのプロンプターのようでした。
声の後にホセが同じように言うのに気がついたのです。
4階まで聞こえるということはかなり大きな声なのでは、と興味深々でした。
ウクライナ国立歌劇場管弦楽団
前奏曲、大変楽しみにしていきました。
テンポは急ぎすぎず派手すぎずなまとまり。
全体としても、楽器ひとつひとつとてもよい音の粒ぞろえで大変バランスのよい響きでした。
クラリネットのソロが特によかった。
あくまでも歌唱を支える音楽ということなのでしょうかあまり劇的でないあっさりした味付け。
もしかしたら指揮者がピンチヒッターのヴィクトル・オリニクだったのでこれが影響しているかもしれません。
効果音的な音と伴奏曲が同じピットから聴こえてくるのも不思議で、演技・歌・管弦楽が一緒に体験できるオペラならではの醍醐味を実感。
自由への戦い
シヴァチカさんはメッセージ動画で「カルメンは自由を求めて戦った女性。そしてわたしたちは今自由を求めてロシアと戦っている。」とおっしゃっていました。娘さんはウクライナにいてミサイルが恐いといっているとも話していらっしゃいました。
カルメン 有名曲の数々
なんといってもスペインの香り溢れる珠玉の名曲が次々に奏でられるのがカルメンの楽しさです。
聴いて楽しい曲を集めました。
指揮:クリュイタンス、演奏;パリ・オペラ・コミーク座管弦楽団&合唱団他。以下同じ
<第1幕>
カルメンが自らの自由な恋愛観を歌う場面
カルメンが同僚とのケンカで衛兵につかまり、こっそり逃がしてもらおうとホセを誘惑する場面
<第2幕>
ジプシーの村に逃げ込んだカルメンがジプシーの情熱的な生き方を礼賛し歌い踊る場面。
ホセからカルメンの愛を奪うことになる闘牛士エスカミーリョが登場する場面。
超有名メロディーは1:19から。
密輸入をもくろむグループに仲間にならないかと誘われる場面。
ひそひそと早口で歌う。
カルメンを逃がして牢に入っていたホセが解放されジプシーの村のカルメンを訪ね、カルメンが御礼に踊る場面。
<第3幕>
2人の女性がカルタで占っている場面。カルメンには死のカードが。
<第4幕(今回の公演では第3幕-第2場)>
画像はパンフレット、チラシより。アイキャッチ画像は撮影。
2023年1月7日 東京文化会館