フルーティスト、エマニュエル・パユさんとハーピスト、マリー=ピエール・ラングラメさんのデュオコンサートに行ってきた。
お2人ともベルリンフィルの日本ツアーで来日中でした。
曲目は
J.S.バッハ:フルート・ソナタ BWV1031
N.ロータ:フルートとハープのためのソナタ
R.シューマン:3つのロマンス
F.プーランク:フルート・ソナタ
ドビュッシー:ロマンティックなワルツ(ハープ独奏)
デスプラ:エアラインズ(2018)(フルート独奏)
ピアソラ:《タンゴの歴史》より 「Ⅰ.酒場1900」、「Ⅱ.カフェ1930」、「Ⅲ.ナイトクラブ 1960」
J.S.バッハ:フルート・ソナタ
J.S.バッハのフルートにむけたソナタは、The王道でかわいらしいメロディーの短編集といったシリーズだ。
今回の1031はフルートとチェンバロのためのソナタが原型。
チェンバロのところを、ラングラメがハープで演奏する。
チェンバロのパートは、結構両手で忙しく弾くのだが、これをハープでどんなふうにアレンジされるのかと思っていたら。
“そのとおり”だった。
弦を細かく速くポンポンとキレよく弾かれていた。
少し音がとんだところがあったようにも聞こえたが、それよりも透明で流れるようなハープはこんなにも機動的な表現があるのかとびっくり、うっとりした。
パユ様はたゆたっている。
低音をハープと共鳴させながら、深~くたっぷりと響かせている。
N.ロータ:フルートとハープのためのソナタ
ニノ・ロータは、映画音楽で有名な現代の作曲家。
「ゴッドファーザー」「太陽がいっぱい」などなど代表曲がある。
もともとはクラシックの作曲家で「フルートとハープのためのソナタ」は映画音楽を多く手がけるようになる以前に作られた曲。
ではあるが、パユ、ラングラメお2人が演奏すると、情景が浮かんでくる。
広い花畑、輝く太陽、男性が暗がりに入り組んだ町の路地を歩いている、といったもちろん勝手な想像であるが、ニノ・ロータは映画の世界にいくべくしていったのだなということを感じさせる曲。
その曲にパユが音色、調子、強弱、流れで生命を吹き込み、ラングラメが無重力空間をつくりあげる。
なんて感動的なのだ。
R.シューマン:3つのロマンス
もとは、オーボエとピアノの曲であり、ヴァイオリンとクラリネットのバージョンもある。
これがフルートとハープのデュオで演奏される。
曲調は悲しげで、ハープがしみる。
フルートは低音、それでいて響きは明るめ、とろみのある低音は「おおっ」とどきどきした。
F.プーランク:フルート・ソナタ
待ってました。パユ様のプーランク。
1楽章のグリッサンドは天使の駆け上がりかという煌めきと力強さ。
速吹きはキレありながら余裕のふくよかさ。
2楽章は、切ない調子。フルートの高音は柔らかい~。
音から音の間の空気をもコントロールされていてとろ~りと響いてくる。
3楽章、キャー。
インパクトの1音を、ピカーっとヤンチャに入れてきて、ラングラメさんもノリノリという感じ。
すばしっこく動く旋律がこぼれ落ちる宝石のよう。最高でございました。
頭出しは第3楽章
ドビュッシー:ロマンティックなワルツ
ラングラメさん独奏。
もとはピアノの曲。
これを1人でハープでって、いったい、2本の手がどのように動いてこんなにたくさんの音がでるのか。よーーくみたのだけれど、手品のようでよくわからない。
音は重層的。清水がたえまなく流れているようで、一方で低音が響いている。うっとりしていたらあっという間に演奏が終わってしまった。
デスプラ:エアラインズ
パユ様独奏。
デスプラは現代のフランスの映画音楽作曲家。この方がパユのために作った曲。
以前、solo公演でも演奏され、今回2回目であったが、また表情が違った。
以前は、挑戦的というか限界まで出し切るキッパリした演奏だった。
ロングトーンのカ所があるが、これもどれだけ強く長くいくんだーーーという勝負的なところが聴きどころでもあった。
今回は「柔」だ。
パユのための曲ということで、独特の奏法のフルートを篠笛的に鳴らす驚嘆すべきテクニックが取り入れられているが、今回も武士的・神秘的な空気がつくりあげられ、道場にでもいるような澄んだ緊張感にかわりはなかった。
ロングトーンのところは「柔」。長ーーい絹織物をふわーっと広げるような繊細で彩のある柔らかい線で、その後の少しの静寂も心地よい。
同じ曲を同じ演者が演奏しても、表現は無限なのだなとしみじみ思った。
ピアソラ:《タンゴの歴史》より
ピアソラは、アルゼンチン出身の現代風タンゴの作曲家でバンドネオン奏者。
フルートとギターのために作曲された曲。
Ⅰ.酒場1900
とにかく楽しい。
タンゴのフルートは音色が猫の目のように自由自在に変化する。
ギターのボディのところを叩いてアクセントをつけるカ所があるが、これをなんとラングラメさんがハープの響板のところを叩いている。
こんなのいいのーー? と盛り上がる。
タンゴのリズムをハープが軽快に刻んでいる、なにかガタゴトと音がしていて、なにかと思ったらラングラメさんがペダルを踏んでいる音だった。
ハーピストは白鳥のようだ。見えるところは優美で、見えない足が激しく動いている。すごい。
ハープのソロを生演奏で聴いたのは初めてだった。
フルートとハープはもちろん相性抜群だが、パユとラングラメのデュオはまた息ぴったりで心が温かくなった。
演奏はもちろんだが、曲の始まる前にポロロンと触れて出る音、それがグッときた。
アンコールは2曲もやってくれた。
・サン=サーンス:死の舞踏
・イベール:間奏曲
写真はチラシより。
(2023年11月29日 浜離宮朝日ホール)