ドぎもを抜かれました。
とんでもないデュオです。
2台のチェロが、ドライブ感あふれるフレージングとボリューミーで美しいハーモニーで駆け抜けるのです。
第1チェロが娘・ユリアさんで第2が父・クレメンスさん。
ユリアは若々しく素直で骨太な音をブンブン鳴らしてきます。
それを下から懐深く支える父。
クレメンスの弦の響きは、楽器から発せられるというよりは天から降りおりてきて直接脳波と共鳴するような、魔法にかけられた心地よさを感じます。
曲目は
J. ハイドン作曲:ニ重奏曲 ニ長調 Hob.Ⅻ:3+5
J. バリエール作曲: 2つのチェロのためのソナタ ト長調
D. ポッパー作曲:2つのチェロのための組曲 Op.16
L. ボッケリーニ作曲:2つのチェロのためのソナタ ハ短調 G.2
M. バルトロメイ作曲:光 / Licht
J. オッフェンバック作曲:チェロニ重奏曲 イ短調 Op. 53-2
N. パガニーニ作曲:モーゼ幻想曲
ハイドン二重奏曲
ハイドンでさえ、このお2人にかかるとフュージョンです。
旋律は滑らかながら緩急を自在に取り入れたアグレッシブな演奏で、α波を出してのんびりしている閑なんてありませんでした。
バリエール:2つのチェロのためのソナタ ト長調
第3楽章
Clemens Hagen & Julia Hagen. Wiener Konzerthaus youtubeより
コロナの行動制限時にアップされたこの楽章の映像が父娘デュオ結成のきっかけになったのだそうです。
ライブはこんなものではなかった。
バルトロメイ:光 / Licht
光/Licht。これがまた最高にすごかった。
曲はクレメンス&ユリア・ハーゲンの委嘱によってM. バルトロメイが作曲したものだということです。
光/Lichtのタイトルの意味が冒頭でわかりました。
閃光が遥か彼方から差し込んでくるような、速く遠近感のある奏法にびっくりです。
終始、荒々しさと繊細さが交互するグルーブ感満載の目くるめく展開で「これはラテン系?スペイン的?」と考えていましたがまんざら的外れでもなかったかなと思ったのは、アンコール曲がMario Escudero作曲:Flamenco bulerias という曲だったことです。
やはり、フラメンコ調も入っていたのかなと。
主を渡し合っていくお2人の息はピッタリで激しすぎかっこよすぎでした。
パガニーニ:モーゼ幻想曲
パガニーニはさすがに曲自体うっとりする旋律ですが、本来はピアノとヴァイオリンの曲で技術的には最難関とのこと。
速弾き、ギリッギリの高音、変わるテンポとロック調な味付けで狂気のパガニーニもびっくりなのではないかと思います。
ヴァイオリン:イダ・ヘンデル、ピアノ:アルフレード・ホレチェク。1962年録音
クレメンス・ハーゲンといえばハーゲン・カルテットでモーツアルトの弦楽四重奏を聴いたことがありましたので、今回のデュオもたっぷりゆったりチェロの世界にひたろうかなとの思いはよい意味で完全に裏切られました。
楽章間に目を合わせにっこりする娘にうれしそうなクレメンスさんという絵もよかった。
チェロというのはオーケストラから離れるとこんなにも縦横無尽に立ち回る楽器なのかと初めての興奮と爽快な気分を堪能しました。
また聴きたい。
(2022年10月4日 武蔵野市民文化会館)