トゥガン・ソヒエフの「ダフニスとクロエ」組曲
ラベル作曲の「ダフニスとクロエ」はバレエ音楽だ。
ダフニスとクロエは恋人同士で、クロエが海賊に誘拐され大ピンチのところを神に助けられ二人は再会、ハッピーエンド、というお話。
第1番の出だしはイメージとして”暗い海中の岩場で、小さな小さな泡が無数にわいてきていて、そこになにかの存在の気配がかもしだされている”雰囲気。
ブクブクというかふわふわというか微妙な音が静けさや不気味さを感じさせるのだが、これ、なにをどのようにすればこのような音になるのかと思ってみていたら、弦を複数の指で押さえては離すという動きを細かく速く繰り返すことによって生み出されているものだとうことがわかった。それが素早く正確に長時間刻み続けていて、聴きどころでもあり見どころでもあった。
トゥガン・ソヒエフ
ソヒエフはこの弱い弱い音を融合して溶かして、吹き出すようなフォルテで音の空気を充満させる流れがみごと。
どのように小さくいるのかどのように大きくするのかの振付に一つの隙も無く豊かな表情を実現している。
見ていると、パートごとというよりは1人1人に意思を伝えているようだ。
ソヒエフは以前、”「白鳥の湖」はバレエを魅せることが優先され、音楽はそれに合わせざるを得ず、本来書かれた曲としての仕上がりが変わってきてしまう。なので演奏会型式で演奏する時は曲本来の魅力を伝えたい”と話してたが、まさにバレエがないだけに聴き手は自由なイマジネーションを拡げることができる(冒頭の”暗い海中”も実際の設定はどうかはわからない)。
静かなところはティンカーベル、ビッグウェーブのところは冒険活劇といった鮮やかな対比は、ハリーポッターの音楽でもピタリなのではないかと思った。
「ダフニスとクロエ」ってこんなに楽しい曲だったのか。
第2番のフルートのソロは不思議さを含んだ大変通りのよい音色で存在感があり、心に響いた。
コンサートマスターの白井圭さんのソロも美しかった。
指揮者の10本の指先と演者が一体化したうねりを聴いたのはゲルギエフ以来。
マックスブラボーだった。
バルトーク作曲 ヴィオラ協奏曲(シェルイ版)
ラヴェル作曲 「ダフニスとクロエ」組曲 第1番、第2番
ドビュッシー作曲 交響詩「海」
(2023年1月26日 サントリーホール)